第一 二十 座(日本古典原文倉庫)

          
       萬葉集  
            

        巻第七   雑 歌
          ななまきにあたるまき くさぐさのうた


          
    原文並びに訓読万葉集 
               鹿持雅澄『萬葉集古義』より



        真仮名マトリックス
          万葉集名所考 
      
    万葉集古義 鹿持 雅澄 訓 
            - 国立国会図書館 デジタルライブラリー




一〇六八、詠天 (あめを詠める)
天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見

天の海に雲の波立ち月の船星の林に榜ぎ隠る見ゆ

    右ノ一首(ヒトウタ)ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。





一〇六九、詠月 (月を詠める)
常者曽 不念物乎 此月之 過匿巻 惜夕香裳

常はかつて思はぬものをこの月の過ぎ隠れまく惜しき宵かも




一〇七〇、詠月、
大夫之 弓上振起 猟高之 野邊副清 照月夜可聞


大夫(ますらを)の弓末(ゆずゑ)振り起し狩高の野辺さへ清く照る月夜(つくよ)かも





一〇七一、詠月、
山末尓 不知夜歴月乎 将出香登 待乍居尓 夜曽降家類


山の端にいさよふ月を出でむかと待ちつつ居るに夜ぞ降(くだ)ちける





一〇七二、詠月、
明日之夕 将照月夜者 片因尓 今夜尓因而 夜長有


明日の夜(よひ)照らむ月夜は片寄りに今宵に寄りて夜長からなむ





一〇七三、詠月、
玉垂之 小簾之間通 獨居而 見驗無 暮月夜鴨

玉垂(たまたれ)の小簾(をす)の間通し独り居て見る験(しるし)無き夕月夜かも




一〇七四、詠月、
春日山 押而照有 此月者 妹之庭母 清有家里

春日山おして照らせるこの月は妹が庭にも清(さや)けかるらし




一〇七五、詠月、
海原之 道遠鴨 月讀 明少 夜者更下乍

海原の道遠みかも月読(つくよみ)の光少き夜は更(くだ)ちつつ




一〇七六、詠月、
百師木之 大宮人之 退出而 遊今夜之 月清左

百敷の大宮人の退(まか)り出て遊ぶ今夜の月の清(さや)けさ




一〇七七、詠月、
夜干玉之 夜渡月乎 将留尓 西山邊尓 塞毛有粳毛

ぬば玉の夜渡る月を留めむに西の山辺に関もあらぬかも





一〇七八、詠月、
此月之 此間来者 且今跡香毛 妹之出立 待乍将有

この月のここに来たれば今とかも妹が出で立ち待ちつつあらむ





一〇七九、詠月、
真十鏡 可照月乎 白妙乃 雲香隠流 天津霧鴨

真澄鏡(まそかがみ)照るべき月を白妙の雲か隠せる天つ霧かも






一〇八〇、詠月、
久方乃 天照月者 神代尓加 出反等六 年者經去乍

久かたの天(あま)照る月は神代にか出でかへるらむ年は経につつ






一〇八一、詠月、
烏玉之 夜渡月乎 _怜 吾居袖尓 露曽置尓鷄類

ぬば玉の夜渡る月をおもしろみ吾(あ)が居る袖に露ぞ置きにける






一〇八二、詠月、
水底之 玉障清 可見裳 照月夜鴨 夜之深去者

水底の玉さへ清く見つべくも照る月夜(つくよ)かも夜の更けぬれば






一〇八三、詠月、
霜雲入 為登尓可将有 久堅之 夜渡月乃 不見念者

霜曇りすとにかあらむ久かたの夜渡る月の見えなく思(も)へば





一〇八四、詠月、
山末尓 不知夜經月乎 何時母 吾待将座 夜者深去乍

山の端にいさよふ月をいつとかも吾(あ)が待ち居らむ夜は更けにつつ




一〇八五、詠月、
妹之當 吾袖将振 木間従 出来月尓 雲莫棚引

妹があたり吾(あ)が袖振らむ木の間より出で来る月に雲な棚引き





一〇八六、詠月、
靱懸流 伴雄廣伎 大伴尓 國将榮常 月者照良思

靫(ゆき)懸くる伴の男(を)広き大伴に国栄えむと月は照るらし





一〇八七、詠雲 (雲を詠める)
痛足河 々浪立奴 巻目之 由槻我高仁 雲居立有良志

穴師川(あなしかは)川波立ちぬ巻向(まきむく)の弓月が岳に雲居立つらし




一〇八八、詠雲、
足引之 山河之瀬之 響苗尓 弓月高 雲立渡

あしひきの山河(やまがは)の瀬の鳴るなべに弓月が岳に雲立ち渡る

   右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。




一〇八九、詠雲、
大海尓 嶋毛不在尓 海原 絶塔浪尓 立有白雲

大海に島もあらなくに海原(うなはら)のたゆたふ波に立てる白雲

   右ノ一首ハ、伊勢ニ従駕シテ作メル。





一〇九〇、詠雨 (雨を詠める)
吾妹子之 赤裳裙之 将染O 今日之WX尓 吾共所沾名

我妹子(わぎもこ)が赤裳の裾の湿(ひづ)つらむ今日の小雨に吾(あれ)さへ濡れな





一〇九一、詠雨、
可融 雨者莫零 吾妹子之 形見之服 吾下尓著有

融(とほ)るべく雨はな降りそ我妹子が形見の衣吾(あれ)下に着(け)り




一〇九二、詠山 (山を詠める)
動神之 音耳聞 巻向之 桧原山乎 今日見鶴鴨

鳴神の音のみ聞きし巻向の桧原(ひはら)の山を今日見つるかも




一〇九三、詠山、
三毛侶之 其山奈美尓 兒等手乎 巻向山者 継之宜霜

三諸(みもろ)のその山並に子らが手を巻向山は続(つぎ)のよろしも




一〇九四、詠山、
我衣 色取染 味酒 三室山 黄葉為在

吾(あ)が衣色に染(し)めなむ味酒(うまさけ)三室の山は黄葉(もみち)しにけり

  右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。




一〇九五、詠山、
三諸就 三輪山見者 隠口乃 始瀬之桧原 所念鴨

三諸つく三輪山見れば隠国(こもりく)の泊瀬の桧原思ほゆるかも




一〇九六、詠山、
昔者之 事波不知乎 我見而毛 久成奴 天之香具山

古のことは知らぬを吾(あれ)見ても久しくなりぬ天(あめ)の香具山





一〇九七、詠山、
吾勢子乎 乞許世山登 人者雖云 君毛不来益 山之名尓有之

我が背子をいで巨勢山と人は言へど君も来まさず山の名にあらし




一〇九八、詠山、
木道尓社 妹山在云 玉櫛上 二上山母 妹許曽有来

紀道(きぢ)にこそ妹山ありといへ玉くしげ二上山も妹こそありけれ




一〇九九、詠岳  (岳(をか)を詠める)
片岡之 此向峯 椎蒔者 今年夏之 陰尓将化疑

片岡のこの向つ峯(を)に椎蒔かば今年の夏の蔭になみむか




一一〇〇、詠河  (河を詠める)
巻向之 病足之川由 徃水之 絶事無 又反将見

巻向の穴師の川ゆ行く水の絶ゆること無くまたかへり見む




一一〇一、詠河、
黒玉之 夜去来者 巻向之 川音高之母 荒足鴨疾

ぬば玉の夜さり来れば巻向の川音(かはと)高しも嵐かも疾(と)き

  右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。




一一〇二、詠河、
大王之 御笠山之 帶尓為流 細谷川之 音乃清也

大王の御笠の山の帯にせる細谷川の音の清(さや)けさ




一一〇三、詠河、
今敷者 見目屋跡念之 三芳野之 大川余杼乎 今日見鶴鴨

今しきは見めやと思(も)ひしみ吉野の大川淀を今日見つるかも




一一〇四、詠河、
馬並而 三芳野河乎 欲見 打越来而曽 瀧尓遊鶴

馬並(な)めてみ吉野川を見まく欲り打ち越え来てぞ滝に遊びつる




一一〇五、詠河、
音聞 目者末見 吉野川 六田之与杼乎 今日見鶴鴨

音に聞き目にはいまだ見ぬ吉野川六田(むつだ)の淀を今日見つるかも




一一〇六、詠河、
河豆鳴 清川原乎 今日見而者 何時可越来而 見乍偲食

かはづ鳴く清き川原を今日見てばいつか越し来て見つつ偲はむ




一一〇七、詠河、
泊瀬川 白木綿花尓 堕多藝都 瀬清跡 見尓来之吾乎

泊瀬川白木綿花(しらゆふはな)に落ちたぎつ瀬を清(さや)けみと見に来し吾(あれ)を




一一〇八、詠河、
泊瀬川 流水尾之 湍乎早 井提越浪之 音之清久

泊瀬川流るる水脈(みを)の瀬を早み井堤(ゐて)越す波の音の清けく




一一〇九、詠河、
佐桧乃熊 桧隅川之 瀬乎早 君之手取者 将縁言毳

さひのくま桧隈川(ひのくまがは)の瀬を速み君が手取らば言(こと)寄せむかも




一一一〇、詠河、
湯種蒔 荒木之小田矣 求跡 足結出所沾 此水之湍尓

ゆ種蒔く荒木の小田を求めむと足結(あゆひ)は濡れぬこの川の瀬に




一一一一、詠河、
古毛 如此聞乍哉 偲兼 此古河之 清瀬之音矣

古もかく聞きつつや偲ひけむこの布留川(ふるかは)の清き瀬の音(と)を




一一一二、詠河、
波祢蘰 今為妹乎 浦若三 去来率去河之 音之清左

葉根蘰(はねかづら)今する妹をうら若みいざ率川(いざがは)の音の清けさ




一一一三、詠河、
此小川 白氣結 瀧至 八信井上尓 事上不為友

この小川霧たなびけり落ち激(たぎ)つ走井(はしゐ)の上に言挙げせねども




一一一四、詠河、
吾紐乎 妹手以而 結八川 又還見 万代左右荷

吾(あ)が紐を妹が手もちて結八川(ゆふやがは)また還り見む万代までに




一一一五、詠河、
妹之紐 結八河内乎 古之 并人見等 此乎誰知

妹が紐結八河内(ゆふやかふち)を古の人さへ見つつここを偲ひき




一一一六、詠露 (露を詠める)
烏玉之 吾黒髪尓 落名積 天之露霜 取者消乍

ぬば玉の吾(あ)が黒髪に降りなづむ天の露霜取れば消(け)につつ




一一一七、詠花 (花を詠める)
嶋廻為等 礒尓見之花 風吹而 波者雖縁 不取不止

島廻(み)すと磯に見し花風吹きて波は寄すとも採らずばやまじ




一一一八、詠葉 (葉を詠める)
古尓 有險人母 如吾等架 弥和乃桧原尓 挿頭折兼

古にありけむ人も吾(あ)がごとか三輪の桧原(ひはら)に挿頭(かざし)折りけむ




一一一九、詠葉、
徃川之 過去人之 手不折者 裏觸立 三和之桧原者

ゆく川の過ぎにし人の手折(たを)らねばうらぶれ立てり三輪の桧原は

 右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。




一一二〇、詠蘿 (蘿(こけ)を詠める)
三芳野之 青根我峯之 蘿席 誰将織 經緯無二

み吉野の青根が岳の蘿むしろ誰(たれ)か織りけむ経緯(たてぬき)無しに




一一二一、詠草 (草を詠める)
妹等所 我通路 細竹為酢寸 我通 靡細竹原

妹がりと吾(あ)がゆく道の篠芒(しぬすすき)吾(あれ)し通はば靡け篠原




一一二二、詠鳥
(鳥を詠める)
山際尓 渡秋沙乃 行将居 其河瀬尓 浪立勿湯目

山の際(ま)に渡る秋沙(あきさ)の行きて居(ゐ)むその川の瀬に波立つなゆめ



一一二三、詠鳥、
佐保河之 清河原尓 鳴知鳥 河津跡二 忘金都毛

佐保川の清き川原に鳴く千鳥かはづと二つ忘れかねつも



一一二四、詠鳥、 (鳥を詠める)
佐保川尓 小驟千鳥 夜三更而 尓音聞者 宿不難尓

佐保川にさ躍る千鳥*夜降(ぐた)ちて汝(な)が声聞けば寝(い)ねかてなくに



一一二五、思故郷 (ふるさとをしぬふ)
清湍尓 千鳥妻喚 山際尓 霞立良武 甘南備乃里

清き瀬に千鳥妻呼び山の際(ま)に霞立つらむ甘南備(かむなび)の里



一一二六、思故郷、
年月毛 末經尓 明日香川 湍瀬由渡之 石走無

年月もいまだ経なくに明日香川瀬々(せせ)ゆ渡しし石橋(いはばし)もなし



一一二七、詠井 (
井を詠める)
隕田寸津 走井水之 清有者 癈者吾者 去不勝可聞

落ちたぎつ走井(はしゐ)の水の清くあれば度(わた)らふ吾(あれ)は行きかてぬかも



一一二八、詠井、 (井を詠める)
安志妣成 榮之君之 穿之井之 石井之水者 雖飲不飽鴨

馬酔木(あしび)なす栄えし君が掘りし井の石井(いはゐ)の水は飲めど飽かぬかも



一一二九、詠倭琴 (やまとことを詠める
)
琴取者 嘆先立 盖毛 琴之下樋尓 嬬哉匿有

琴取れば嘆き先立つけだしくも琴の下樋(したひ)に妻や隠(こも)れる



一一三〇、芳野作 (芳野にてよめる)
神左振 磐根己凝敷 三芳野之 水分山乎 見者悲毛

神さぶる岩根こごしきみ吉野の水分山(みくまりやま)を見れば愛(かな)しも



一一三一、芳野作、
皆人之 戀三芳野 今日見者 諾母戀来 山川清見

人皆の恋ふるみ吉野今日見ればうべも恋ひけり山川清み



一一三二、芳野作、
夢乃和太 事西在来 寤毛 見而来物乎 念四念者

夢(いめ)の和太(わだ)言(こと)にしありけり現(うつつ)にも見て来しものを思ひし思(も)へば



一一三三、芳野作、
皇祖神之 神宮人 冬薯蕷葛 弥常敷尓 吾反将見

皇祖神(すめろき)の神の宮人野老葛(ところづら)いや常(とこ)しくに吾(あれ)かへり見む



一一三四、芳野作、
能野川 石迹柏等 時齒成 吾者通 万世左右二

吉野川石(いは)と柏と常磐なす吾(あれ)は通はむ万代までに



一一三五、山背作 (山背にてよめる)
氏河齒 与杼湍無之 阿自呂人 舟召音 越乞所聞

宇治川は淀瀬無からし網代人(あじろひと)舟呼ばふ声をちこち聞こゆ



一一三六、山背作、
氏河尓 生菅藻乎 河早 不取来尓家里 L為益緒

宇治川に生ふる菅藻を川速み採らず来にけり苞(つと)にせましを



一一三七、山背作、
氏人之 譬乃足白 吾在者 今齒与良増 木積不来友

宇治人の譬ひの網代君しあらば今は寄らまし木積(こつ)ならずとも



一一三八、山背作、
氏河乎 船令渡呼跡 雖喚 不所聞有之 楫音毛不為

宇治川を船渡せをと呼ばへども聞こえざるらし楫の音(と)もせず



一一三九、山背作、
千早人 氏川浪乎 清可毛 旅去人之 立難為

ちはや人宇治川波を清みかも旅行く人の立ちかてにする



一一四〇、攝津作 (つのくににてよめる)
志長鳥 居名野乎来者 有間山 夕霧立 宿者無而 
 (一本云 猪名乃浦廻乎 榜来者)

しなが鳥猪名野を来れば有馬山夕霧立ちぬ宿は無くして



一一四一、攝津作、
武庫河 水尾急 赤駒 足何久激 沾祁流鴨

武庫川(むこかは)の水脈を速みと*赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも



一一四二、攝津作、
命 幸久吉 石流 垂水々乎 結飲都

命を幸(さき)くあらむと*石走る垂水の水を結びて飲みつ



一一四三、攝津作、
作夜深而 穿江水手鳴 松浦船 梶音高之 水尾早見鴨

さ夜更けて堀江榜ぐなる松浦船(まつらぶね)楫の音(と)高し水脈速みかも



一一四四、攝津作、
悔毛 満奴流塩鹿 墨江之 岸乃浦廻従 行益物乎

悔しくも満ちぬる潮か住吉(すみのえ)の岸の浦廻よ行かましものを



一一四五、攝津作、
為妹 貝乎拾等 陳奴乃海尓 所沾之袖者 雖涼常不干

妹がため貝を拾(ひり)ふと茅渟(ちぬ)の海に濡れにし袖は干せど乾かず



一一四六、攝津作、
目頬敷 人乎吾家尓 住吉之 岸乃黄土 将見因毛欲得

めづらしき人を我家(わぎへ)に住吉の岸の埴生(はにふ)を見むよしもがも



一一四七、攝津作、
暇有者 拾尓将徃 住吉之 岸因云 戀忘貝
暇(いとま)あらば拾ひに行かむ住吉の岸に寄るちふ恋忘れ貝



一一四八、攝津作、
馬雙而 今日吾見鶴 住吉之 岸之黄土 於万世見

馬並(な)めて今日吾(あ)が見つる住吉の岸の埴生を万代に見む



一一四九、攝津作、
住吉尓 徃云道尓 昨日見之 戀忘貝 事二四有家里

住吉に往きにし道に*昨日見し恋忘れ貝言にしありけり



一一五〇、攝津作、
墨吉之 岸尓家欲得 奥尓邊尓 縁白浪 見乍将思
住吉の岸に家もが沖に辺に寄する白波見つつ偲はむ



一一五一、攝津作、
大伴之 三津之濱邊乎 打曝 因来浪之 逝方不知毛

大伴の御津の浜辺を打ちさらし寄せ来る波のゆくへ知らずも



一一五二、攝津作、
梶之音曽 髣髴為鳴 海末通女 奥藻苅尓 舟出為等思母 
(一云 暮去者 梶之音為奈利)

楫の音(と)ぞほのかにすなる海未通女(あまをとめ)沖つ藻刈りに舟出すらしも



一一五三、攝津作、
住吉之 名兒之濱邊尓 馬立而 玉拾之久 常不所忘

住吉の名児の浜辺に馬並めて*玉拾ひしく常忘らえず



一一五四、攝津作、
雨者零 借廬者作 何暇尓 吾兒之塩干尓 玉者将拾

雨は降り刈廬は作るいつの間に吾児(あご)の潮干に玉は拾はむ



一一五五、攝津作、
奈呉乃海之 朝開之奈凝 今日毛鴨 礒之浦廻尓 乱而将有

名児の海の朝明(あさけ)のなごり今日もかも磯の浦廻に乱れてあらむ



一一五六、攝津作、
住吉之 遠里小野之 真榛以 須礼流衣乃 盛過去

住吉の遠里(をり)の小野(をぬ)の真榛(まはり)もち摺れる衣の盛り過ぎぬる



一一五七、攝津作、
時風 吹麻久不知 阿胡乃海之 朝明之塩尓 玉藻苅奈

時つ風吹かまく知らに吾児の海の朝明の潮に玉藻刈りてな



一一五八、攝津作、
住吉之 奥津白浪 風吹者 来依留濱乎 見者浄霜

住吉の沖つ白波風吹けば来寄する浜を見れば清しも




一一五九、攝津作、
住吉之 岸之松根 打曝 縁来浪之 音之清羅

住吉の岸の松が根打ちさらし寄せ来る波の音の清しも



一一六〇、攝津作、
難波方 塩干丹立而 見渡者 淡路嶋尓 多豆渡所見

難波潟潮干に立ちて見渡せば淡路の島に鶴(たづ)渡る見ゆ



一一六一、覊旅作 (覊旅(たび)にてよめる)
離家 旅西在者 秋風 寒暮丹 鴈喧度

家離(ざか)り旅にしあれば秋風の寒き夕へに雁鳴き渡る



一一六二、覊旅作、
圓方之 湊之渚鳥 浪立也 妻唱立而 邊近著毛

圓方(まとがた)の港の洲鳥波立てば妻呼びたてて辺に近づくも



一一六三、覊旅作、
年魚市方 塩干家良思 知多乃浦尓 朝榜舟毛 奥尓依所見

年魚市潟(あゆちがた)潮干にけらし知多の浦に朝榜ぐ舟も沖に寄る見ゆ



一一六四、覊旅作、
塩干者 共滷尓出 鳴鶴之 音遠放 礒廻為等霜

潮干れば共に潟に出(で)鳴く鶴(たづ)の声遠ざかれ磯廻すらしも



一一六五、覊旅作、
暮名寸尓 求食為鶴 塩満者 奥浪高三 己妻喚

夕凪にあさりする鶴(たづ)潮満てば沖波高み己妻(おのづま)呼ぶも



一一六六、覊旅作、
古尓 有監人之 覓乍 衣丹揩牟 真野之榛原

古にありけむ人の求めつつ衣に摺りけむ真野の榛原



一一六七、覊旅作、
朝入為等 礒尓吾見之 莫告藻乎 誰嶋之 白水郎可将苅

あさりすと磯に吾(あ)が見し名告藻(なのりそ)をいづれの島の海人か刈るらむ



一一六八、覊旅作、
今日毛可母 奥津玉藻者 白浪之 八重折之於丹 乱而将有

今日もかも沖つ玉藻は白波の八重折るが上に乱れてあらむ



一一六九、覊旅作、
近江之海 湖者八十 何尓加 公之舟泊 草結兼

近江の海(み)港八十(やそ)あり何処(いづく)にか君が舟泊て草結びけむ



一一七〇、覊旅作、
佐左浪乃 連庫山尓 雲居者 雨會零智否 反来吾背

楽浪(ささなみ)の連庫山(なみくらやま)に雲ゐれば雨そ降るちふ帰り来(こ)我が背



一一七一、覊旅作、
大御舟 竟而佐守布 高嶋之 三尾勝野之 奈伎左思所念

大御船(おほみふね)泊ててさもらふ高島の三尾の勝野(かちぬ)の渚し思ほゆ



一一七二、覊旅作、
何處可 舟乗為家牟 高嶋之 香取乃浦従 己藝出来船

何処にか舟(ふな)乗りしけむ高島の香取の浦ゆ榜ぎ出来し船



一一七三、覊旅作、
斐太人之 真木流云 尓布乃河 事者雖通 船會不通

飛騨人の真木流すちふ丹生(にふ)の川言は通へど船ぞ通はぬ



一一七四、覊旅作、
霰零 鹿嶋之埼乎 浪高 過而夜将行 戀敷物乎

霰降り鹿島の崎を波高み過ぎてや行かむ恋しきものを



一一七五、覊旅作、
足柄乃 筥根飛超 行鶴乃 乏見者 日本之所念

足柄の箱根飛び越え行く鶴(たづ)の羨(とも)しき見れば大和し思ほゆ



一一七六、覊旅作、
夏麻引 海上滷乃 奥洲尓 鳥者簀竹跡 君者音文不為

夏麻引(なつそび)く海上潟(うなかみがた)の沖つ洲に鳥はすだけど君は音もせず



一一七七、覊旅作、
若狭在 三方之海之 濱清美 伊徃變良比 見跡不飽可聞

若狭なる三方の海の浜清みい往き返らひ見れど飽かぬかも



一一七八、覊旅作、
印南野者 徃過奴良之 天傳 日笠浦 波立見 
 ( 一云 思賀麻江者 許藝須疑奴良思)

印南野は行き過ぎぬらし天伝(あまづた)ふ日笠の浦に波立てり見ゆ



一一七九、覊旅作、
家尓之弖 吾者将戀名 印南野乃 淺茅之上尓 照之月夜乎

家にして我
(あ)れは恋ひむな印南野の浅茅が上に照りし月夜を



一一八〇、覊旅作、
荒礒超 浪乎恐見 淡路嶋 不見哉将過去 幾許近乎

荒磯(ありそ)越す波を畏み淡路島見ずや過ぎなむここだ近きを



一一八一、覊旅作、
朝霞 不止軽引 龍田山 船出将為日者 吾将戀香聞

朝霞止まず棚引く龍田山船出せむ日は吾(あれ)恋ひむかも



一一八二、覊旅作、
海人小船 帆毳張流登 見左右荷 鞆之浦廻二 浪立有所見

海人小舟帆かも張れると見るまでに鞆之浦廻(とものうらみ)に波立てり見ゆ



一一八三、覊旅作、
好去而 亦還見六 大夫乃 手二巻持在 鞆之浦廻乎

ま幸(さき)くてまた還り見む大夫(ますらを)の手に巻き持たる鞆之浦廻を



一一八四、覊旅作、
鳥自物 海二浮居而 奥浪 驂乎聞者 數悲哭

鳥じもの海に浮き居て沖つ波騒くを聞けばあまた悲しも



一一八五、覊旅作、
朝菜寸二 真梶榜出而 見乍来之 三津乃松原 浪越似所見

朝凪に真楫榜ぎ出て見つつ来し御津の松原波越しに見ゆ



一一八六、覊旅作、
朝入為流 海未通女等之 袖通 沾西衣 雖干跡不乾

あさりする海未通女(あまをとめ)らが袖通り濡れにし衣干せど乾かず



一一八七、覊旅作、
網引為 海子哉見 飽浦 清荒礒 見来吾

網引する海人とや見らむ飽浦(あくのうら)の清き荒磯を見に来し吾(あれ)を

  右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一一八八、覊旅作、
山超而 遠津之濱之 石管自 迄吾来 含而有待

山越えて遠津の浜の磯躑躅還り来むまで*ふふみてあり待て



一一八九、覊旅作、
大海尓 荒莫吹 四長鳥 居名之湖尓 舟泊左右手

大海に嵐な吹きそしなが鳥猪名の湊に舟泊つるまで



一一九〇、覊旅作、
舟盡 可志振立而 廬利為 名子江乃濱邊 過不勝鳧

舟泊てて杙(かし)振り立てて廬りせな子潟(こがた)の浜辺過ぎかてぬかも



一一九一、覊旅作、
妹門 出入乃河之 瀬速見 吾馬爪衝 家思良下

妹が門入り泉川の瀬を速み吾(あ)が馬(うま)つまづく家思(も)ふらしも



一一九二、覊旅作、
白栲尓 丹保布信土之 山川尓 吾馬難 家戀良下

白たへににほふ真土の山川に吾(あ)が馬なづむ家恋ふらしも



一一九三、覊旅作、
勢能山尓 直向 妹之山 事聴屋毛 打橋渡

勢(せ)の山に直(ただ)に向へる妹の山事許せやも打橋渡す



一一九四、覊旅作、
木國之 狭日鹿乃浦尓 出見者 海人之燎火 浪間従所見

紀の国の雑賀(さひか)の浦に出で見れば海人の燈火波の間ゆ見ゆ



一一九五、覊旅作、
麻衣 著者夏樫 木國之 妹背之山二 麻蒔吾妹

麻衣(あさころも)着(け)ればなつかし紀の国の妹背の山に麻蒔く我妹(わぎも)

 右ノ七首ハ、藤原卿作メリ。年月審ラカナラズ。



一一九六、覊旅作、
欲得L登 乞者令取 貝拾 吾乎沾莫 奥津白浪

苞(つと)もがと乞はば取らせむ貝拾(ひり)ふ吾(あれ)を濡らすな沖つ白波



一一九七、覊旅作、
手取之 柄二忘跡 礒人之曰師 戀忘貝 言二師有来

手に取るがからに忘ると海人の言ひし恋忘れ貝言にしありけり



一一九八、覊旅作、
求食為跡 礒二住鶴 暁去者 濱風寒弥 自妻喚毛

あさりすと磯に棲む鶴(たづ)明けゆけば浜風寒み己妻(おのつま)呼ぶも



一一九九、覊旅作、
藻苅舟 奥榜来良之 妹之嶋 形見之浦尓 鶴翔所見

藻刈舟(もかりぶね)沖榜ぎ来らし妹が島形見の浦に鶴(たづ)翔る見ゆ



一二〇〇、覊旅作、
吾舟者 従奥莫離 向舟 片待香光 従浦榜将會

我が舟は沖よな離(さか)り迎ひ舟片待ちがてり浦ゆ榜ぎ逢はむ



一二〇一、覊旅作、
大海之 水底豊三 立浪之 将依思有 礒之清左

大海の水底響(とよ)み立つ波の寄せむと思(も)へる磯のさやけさ



一二〇二、覊旅作、
自荒礒毛 益而思哉 玉之裏 離小嶋 夢所見

荒磯ゆもまして思へや玉之浦離(さか)る小島の夢にし見ゆる



一二〇三、覊旅作、
礒上尓 爪木折焼 為汝等 吾潜来之 奥津白玉

磯の上(へ)に爪木折り焚き汝(な)が為と吾(あ)が潜(かづ)き来し沖つ白玉



一二〇四、覊旅作、
濱清美 礒尓吾居者 見者 白水郎可将見 釣不為尓

浜清み磯に吾(あ)が居れば見む人は海人とか見らむ釣もせなくに



一二〇五、覊旅作、
奥津梶 漸々志夫乎 欲見 吾為里乃 隠久惜毛

沖つ楫やうやうな榜ぎ*見まく欲り吾(あ)がする里の隠らく惜しも



一二〇六、覊旅作、
奥津波 部都藻纒持 依来十方 君尓益有 玉将縁八方 
 
( 一云 沖津浪 邊浪布敷 縁来登母)

沖つ波辺つ藻巻き持ち寄せ来とも君にまされる玉寄せめやも



一二〇七、覊旅作、
粟嶋尓 許枳将渡等 思鞆 赤石門浪 未佐和来
粟島に榜ぎ渡らむと思へども明石の門波(となみ)いまだ騒けり



一二〇八、覊旅作、
妹尓戀 余越去者 勢能山之 妹尓不戀而 有之乏左

妹に恋ひ吾(あ)が越えゆけば勢の山の妹に恋ひずてあるが羨しさ



一二〇九、覊旅作、
人在者 母之最愛子曽 麻毛吉 木川邊之 妹与背山

人ならば母の愛子(まなご)そ麻裳(あさも)よし紀の川の辺の妹と背の山



一二一〇、覊旅作、
吾妹子尓 吾戀行者 乏雲 並居鴨 妹与勢能山

我妹子に吾(あ)が恋ひゆけば羨しくも並びをるかも妹と背の山



一二一一、覊旅作、
妹當 今曽吾行 目耳谷 吾耳見乞 事不問侶

妹があたり今ぞ吾(あ)が行く目のみだに吾(あれ)に見せこそ言問はずとも



一二一二、覊旅作、
足代過而 絲鹿乃山之 櫻花 不散在南 還来万代

阿提(あて)過ぎて糸鹿(いとか)の山の桜花散らずあらなむ還り来むまで



一二一三、覊旅作、
名草山 事西在来 吾戀 千重一重 名草目名國

名草山(なぐさやま)言にしありけり吾(あ)が恋ふる千重の一重も慰めなくに



一二一四、覊旅作、
安太部去 小為手乃山之 真木葉毛 久不見者 蘿生尓家里

安太(あた)へ行く推手(をすて)の山の真木の葉も久しく見ねば蘿むしにけり



一二一五、覊旅作、
玉津嶋 能見而伊座 青丹吉 平城有人之 待問者如何

玉津島(たまづしま)よく見ていませ青丹よし奈良なる人の待ち問はばいかに



一二一六、覊旅作、
塩満者 如何将為跡香 方便海之 神我手渡 海部未通女等

潮満たばいかにせむとか海神(わたつみ)の神が門(と)渡る海未通女ども



一二一七、覊旅作、
玉津嶋 見之善雲 吾無 京徃而 戀幕思者

玉津島見てしよけくも吾(あれ)はなし都に行きて恋ひまく思(も)へば



一二一八、覊旅作、
黒牛乃海 紅丹穂經 百礒城乃 大宮人四 朝入為良霜

黒牛の海(み)紅にほふ百敷の大宮人し漁りすらしも



一二一九、覊旅作、
若浦尓 白浪立而 奥風 寒暮者 山跡之所念

若の浦に白波立ちて沖つ風寒き夕へは大和し思ほゆ



一二二〇、覊旅作、
為妹 玉乎拾跡 木國之 湯等乃三埼二 此日鞍四通

妹が為玉を拾ふと紀の国の由良の岬にこの日暮らしつ



一二二一、覊旅作、
吾舟乃 梶者莫引 自山跡 戀来之心 未飽九二

吾(あ)が舟の楫をばな引き大和より恋ひ来(こ)し心いまだ飽かなくに



一二二二、覊旅作、
玉津嶋 雖見不飽 何為而 L持将去 不見人之為

玉津島見れども飽かずいかにして包み持ちゆかむ見ぬ人の為



一二二三、覊旅作、
綿之底 奥己具舟乎 於邊将因 風毛吹額 波不立而

海(わた)の底沖榜ぐ舟を辺に寄せむ風も吹かぬか波立てずして



一二二四、覊旅作、
大葉山 霞蒙 狭夜深而 吾船将泊 停不知文

大葉山(おほはやま)霞たなびき小夜更けて吾(あ)が船泊てむ泊知らずも



一二二五、覊旅作、
狭夜深而 夜中乃方尓 欝之苦 呼之舟人 泊兼鴨

さ夜更けて夜中の方におほほしく呼びし舟人泊てにけむかも



一二二六、覊旅作、
神前 荒石毛不所見 浪立奴 従何處将行 与奇道者無荷

神(かみ)の崎荒磯も見えず波立ちぬいづくゆ行かむ避道(よきぢ)は無しに



一二二七、覊旅作、
礒立 奥邊乎見者 海藻苅舟 海人榜出良之 鴨翔所見

磯に立ち沖辺を見れば海藻刈舟(めかりぶね)海人榜ぎ出(づ)らし鴨翔る見ゆ



一二二八、覊旅作、
風早之 三穂乃浦廻乎 榜舟之 船人動 浪立良下

風早(かざはや)の三穂の浦廻を榜ぐ船の舟人騒く波立つらしも



一二二九、覊旅作、
吾舟者 明石之湖尓 榜泊牟 奥方莫放 狭夜深去来

吾(あ)が舟は明石の浦に*榜ぎ泊てむ沖へな離(さか)りさ夜更けにけり



一二三〇、覊旅作、
千磐破 金之三埼乎 過鞆 吾者不忘 壮鹿之須賣神

ちはやぶる鐘の岬を過ぎぬとも吾(あ)をば忘れじ志加(しか)の皇神(すめかみ)



一二三一、覊旅作、
天霧相 日方吹羅之 水莖之 岡水門尓 波立渡

天霧(あまぎら)ひ日方(ひかた)吹くらし水茎(みづくき)の崗の湊に波立ち渡る



一二三二、覊旅作、
大海之 波者畏 然有十方 神乎齊祀而 船出為者如何

大海の波は畏し然れども神を斎(いは)ひて船出せばいかに



一二三三、覊旅作、
未通女等之 織機上乎 真櫛用 掻上栲嶋 波間従所見

未通女(をとめ)らが織る機(はた)の上(へ)を真櫛もち掻上(かか)げ栲島(たくしま)波の間ゆ見ゆ



一二三四、覊旅作、
塩早三 礒廻荷居者 入潮為 海人鳥屋見濫 多比由久和礼乎

潮速み磯廻に居れば漁りする*海人とや見らむ旅ゆく我を



一二三五、覊旅作、
浪高之 奈何梶執 水鳥之 浮宿也應為 猶哉可榜

波高し如何に楫取水鳥の浮寝やすべき猶や榜ぐべき



一二三六、覊旅作、
夢耳 継而所見乍 竹嶋之 越礒波之 敷布所念

夢のみに継ぎて見えつつ高島の磯越す波のしくしく思ほゆ



一二三七、覊旅作、
静母 岸者波者 縁家留香 此屋通 聞乍居者

静けくも岸には波は寄せけるかこの家通し聞きつつ居れば



一二三八、覊旅作、
竹嶋乃 阿戸白波者 動友 吾家思 五百入そ染

高島の安曇(あど)河波は騒けども吾(あれ)は家思(も)ふ廬り悲しみ



一二三九、覊旅作、
大海之 礒本由須理 立波之 将依念有 濱之浄奚久

大海の磯もと揺すり立つ波の寄せむと思(も)へる浜の清(さや)けく



一二四〇、覊旅作、
珠匣 見諸戸山矣 行之鹿齒 面白四手 古昔所念

玉くしげ見諸戸山(みもろとやま)を行きしかば面白くして古思ほゆ



一二四一、覊旅作、
黒玉之 玄髪山乎 朝越而 山下露尓 沾来鴨

ぬば玉の黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも



一二四二、覊旅作、
足引之 山行暮 宿借者 妹立待而 宿将借鴨

あしひきの山ゆき暮らし宿借らば妹立ち待ちて宿貸さむかも



一二四三、覊旅作、
視渡者 近里廻乎 田本欲 今衣吾来 礼巾振之野尓

見渡せば近き里廻を廻(たもとほ)り今そ吾(あ)が来し領巾(ひれ)振りし野に



一二四四、覊旅作、
未通女等之 放髪乎 木綿山 雲莫蒙 家當将見

未通女らが放(はなり)の髪を由布の山雲な棚引き家のあたり見む



一二四五、覊旅作、
四可能白水郎乃 釣船之た 不堪 情念而 出而来家里

志加の海人の釣船の綱耐へかてに心に思(も)ひて出でて来にけり



一二四六、覊旅作、
之加乃白水郎之 燒塩煙 風乎疾 立者不上 山尓軽引

志加の海人の塩焼く煙(けぶり)風をいたみ立ちは上らず山に棚引く

 右ノ件ノ歌ハ、古集ノ中ニ出ヅ。



一二四七、覊旅作、
大穴道 少御神 作 妹勢能山 見吉

大穴牟遅(おほなむぢ)少御神(すくなみかみ)の作らしし妹背の山は見らくしよしも



一二四八、覊旅作、
吾妹子 見偲 奥藻 花開在 我告与

我妹子と見つつ偲はむ沖つ藻の花咲きたらば吾(あれ)に告げこそ



一二四九、覊旅作、
君為 浮沼池 菱採 我染袖 沾在哉

君がため浮沼(うきぬ)の池の菱摘むと吾(あ)が染衣(しめころも)*濡れにけるかも



一二五〇、覊旅作、
妹為 菅實採 行吾 山路惑 此日暮

妹がため菅の実採りに行きし吾(あれ)山道に惑ひこの日暮らしつ

  右ノ四首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一二五一、問答 (問ひ答へのうた)
佐保河尓 鳴成智鳥 何師鴨 川原乎思努比 益河上

佐保川に鳴くなる千鳥何しかも川原を偲(しぬ)ひいや川上る



一二五二、問答、
人社者 意保尓毛言目 我幾許 師努布川原乎 標緒勿謹

人こそは凡(おほ)にも言はめ吾(あ)がここだ偲ふ川原を標(しめ)結ふなゆめ

 右の二首(ふたうた)は、鳥を詠める。



一二五三、問答、
神樂浪之 思我津乃白水郎者 吾無二 潜者莫為 浪雖不立

楽浪の志賀津の海人は吾(あれ)無しに潜(かづ)きはなせそ波立たずとも



一二五四、問答、
大船尓 梶之母有奈牟 君無尓 潜為八方 波雖不起

大船に楫しもあらなむ君無しに潜きせめやも波立たずとも

 右の二首は、白水郎(あま)を詠める。



一二五五、臨時 (時に臨(つ)けてよめる)
月草尓 衣曽染流 君之為 綵色衣 将摺跡念而

月草に衣ぞ染(そ)める君がため斑の衣摺らむと思(も)ひて



一二五六、臨時、
春霞 井上従直尓 道者雖有 君尓将相登 他廻来毛

春霞井の上(へ)よ直(ただ)に道はあれど君に逢はむと廻(たもとほ)り来(く)も



一二五七、臨時、
道邊之 草深由利乃 花咲尓 咲之柄二 妻常可云也

道の辺(べ)の草深百合(くさふかゆり)の花笑みに笑まししからに妻と言ふべしや



一二五八、臨時、
黙然不有跡 事之名種尓 云言乎 聞知良久波 少可者有来

黙(もだ)あらじと言のなぐさに言ふことを聞き知れらくは苛(から)くそありける



一二五九、臨時、
佐伯山 于花以之 哀我 手鴛取而者 花散鞆

佐伯山卯の花持ちし愛(かな)しきが手をし取りてば花は散るとも



一二六〇、臨時、
不時 斑衣 服欲香 嶋針原 時二不有鞆

時じくに斑の衣着欲しきか島の榛原時にあらねども



一二六一、臨時、
山守之 里邊通 山道曽 茂成来 忘来下

山守の里へ通ひし山道ぞ茂くなりける忘れけらしも



一二六二、臨時、
足病之 山海石榴開 八峯越 鹿待君之 伊波比嬬可聞

あしひきの山椿咲く八峯(やつを)越え鹿(しし)待つ君が斎(いは)ひ妻かも



一二六三、臨時、
暁跡 夜烏雖鳴 此山上之 木末之於者 未静之

暁(あかつき)と夜烏鳴けどこの岡の木末(こぬれ)の上はいまだ静けし



一二六四、臨時、
西市尓 但獨出而 眼不並 買師絹之 商自許里鴨

西の市にただ独り出て目並べず買へりし絹の商(あき)じこりかも


一二六五、臨時、
今年去 新嶋守之 麻衣 肩乃間乱者 誰取見

今年行く新(にひ)防人が麻衣肩のまよひは誰か取り見む



一二六六、臨時、
大舟乎 荒海尓榜出 八船多氣 吾見之兒等之 目見者知之母

大舟を荒海(あるみ)に榜ぎ出八船たけ吾(あ)が見し子らが目(まみ)は著(しる)しも



一二六七、就所發思 (所に就けて思ひを発(の)ぶ旋頭歌
) 

百師木乃 大宮人之 踏跡所 奥浪 来不依有勢婆 不失有麻思乎

百敷の大宮人の踏みし跡ところ沖つ波来寄らざりせば失せざらましを

 右ノ十七首ハ、古歌集ニ出ヅ。



一二六八、就所發思、
兒等手乎 巻向山者 常在常 過徃人尓 徃巻目八方

子らが手を巻向山(まきむくやま)は常にあれど過ぎにし人に行き巻かめやも



一二六九、就所發思、
巻向之 山邊響而 徃水之 三名沫如 世人吾等者

巻向の山辺響(とよ)みて行く水の水沫(みなわ)の如し世の人吾等(われ)は

 右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一二七〇、寄物發思 (物に寄せて思ひを発(の)ぶ 旋頭歌)
隠口乃 泊瀬之山丹 照月者 盈ち為焉 人之常無

隠国の泊瀬の山に照る月は満ち欠けしけり人の常無き




一二七一、行路 (みちゆきぶりのうた)
遠有而 雲居尓所見 妹家尓 早将至 歩黒駒

遠くありて雲居に見ゆる妹が家に早く至らむ歩め黒駒

 右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ



一二七二、旋頭歌
劔後 鞘納野 葛引吾妹 真袖以 著點等鴨 夏草苅母

大刀の後(しり)鞘に入野(いりぬ)に葛引く我妹(わぎも)真袖もち着せてむとかも夏葛引くも



一二七三、旋頭歌、
住吉 波豆麻公之 馬乗衣 雜豆臈 漢女乎座而 縫衣叙

住吉(すみのえ)の波豆麻(なみづま)君が馬乗衣(うまのりごろも)さにづらふ漢女(をとめ)を座(ま)せて縫へる衣ぞ



一二七四、旋頭歌、
住吉 出見濱 柴莫苅曽尼 未通女等 赤裳下 閏将徃見

住吉の出見(いでみ)の浜の浜菜刈らさね未通女(をとめ)ども赤裳の裾湿(ひ)ぢゆかまくも見む



一二七五、旋頭歌、
住吉 小田苅為子 賎鴨無 奴雖在 妹御為 私田苅

住吉の小田を刈らす子奴(やつこ)かも無き奴あれど妹がみためと秋の田刈るも



一二七六、旋頭歌、
池邊 小槻下 細竹苅嫌 其谷 公形見尓 監乍将偲

池の辺(べ)の小槻(をつき)がもとの小竹(しぬ)な刈りそねそれをだに君が形見に見つつ偲はむ



一二七七、旋頭歌、
天在 日賣菅原 草莫苅嫌 弥那綿 香烏髪 飽田志付勿

天なる姫菅原の草な刈りそね蜷(みな)の腸(わた)か黒き髪に芥し付くも



一二七八、旋頭歌、
夏影 房之下邇 衣裁吾妹 裏儲 吾為裁者 差大裁

夏蔭の寝屋の下に衣(きぬ)裁つ我妹うら設(ま)けて吾(あ)がため裁たばいや広(ひろ)に裁て



一二七九、旋頭歌、
梓弓 引津邊在 莫謂花 及採 不相有目八方 勿謂花

梓弓引津の辺(べ)なる名告藻(なのりそ)の花摘むまでに逢はざらめやも名告藻の花



一二八〇、旋頭歌、
撃日刺 宮路行丹 吾裳破 玉緒 念妄 家在矣

打日さす宮道(みやぢ)を行くに吾(あ)が裳(も)は破(や)れぬ玉の緒の思ひ乱れて家にあらましを



一二八一、旋頭歌、
公為 手力勞 織在衣服叙 春去 何色 揩者吉

君がため手力(たぢから)疲れ織りたる衣(きぬ)を春さらばいかなる色に摺りてばよけむ



一二八二、旋頭歌、
橋立 倉椅山 立白雲 見欲 我為苗 立白雲

梯立(はしたて)の倉梯山に立てる白雲見まく欲り吾(あ)がするなへに立てる白雲



一二八三、旋頭歌、
橋立 倉椅川 石走者裳 壮子時 我度為 石走者裳

梯立の倉梯川の石(いは)の橋はも男盛(をさかり)に吾(あ)が渡せりし石の橋はも



一二八四、旋頭歌、
橋立 倉椅川 河静菅 余苅 笠裳不編 川静菅

梯立の倉梯川の川の静菅(しづすげ)吾(あ)が刈りて笠にも編まず川の静菅



一二八五、旋頭歌、
春日尚 田立羸 公哀 若草 つ無公 田立羸

春日(はるひ)すら田に立ち疲る君は悲しも若草の妻なき君が田に立ち疲る



一二八六、旋頭歌、
開木代 来背社 草勿手折 己時 立雖榮 草勿手折

山背(やましろ)の久世の社(やしろ)の草な手折りそ己(し)が時と立ち栄ゆとも草な手折りそ



一二八七、旋頭歌、
青角髪 依網原 人相鴨 石走 淡海縣 物語為

青みづら依網(よさみ)の原に人も逢はぬかも石(いは)走る淡海県(あふみあがた)の物語せむ



一二八八、旋頭歌、
水門 葦末葉 誰手折 吾背子 振手見 我手折

水門(みなと)の葦の末葉(うらは)を誰か手折りし我が背子が袖振る見むと*吾(あれ)ぞ手折りし



一二八九、旋頭歌、
垣越 犬召越 鳥猟為公 青山 葉茂山邊 馬安公

垣越ゆる犬呼び越せて鳥猟(とがり)する君青山の茂き山辺馬休め君



一二九〇、旋頭歌、
海底 奥玉藻之 名乗曽花 妹与吾 此何有跡 莫語之花

海(わた)の底沖つ玉藻の名告藻の花妹と吾(あれ)ここにありと名告藻(なのりそ)の花



一二九一、旋頭歌、
此岡 草苅小子 勿然苅 有乍 公来座 御馬草為

この岡に草刈る小子(こども)しかな刈りそねありつつも君が来まさむ御馬草(みまくさ)にせむ



一二九二、旋頭歌、
江林 次完也物 求吉 白栲 袖纒上 完待我背

江林(えはやし)にやどる猪鹿(しし)やも求むるによき白たへの袖巻き上げて猪鹿待つ我が背



一二九三、旋頭歌、
丸雪降 遠江 吾跡川楊 雖苅 亦生云 余跡川楊

霰降り遠江(とほつあふみ)の吾跡川楊(あどがはやなぎ)刈れれどもまたも生ふちふ吾跡川楊



一二九四、旋頭歌、
朝月 日向山 月立所見 遠妻 持在人 看乍偲

朝月日(あさづくひ)向ひの山に月立てり見ゆ遠妻を持たらむ人し見つつ偲はむ

 右ノ二十三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一二九五、旋頭歌、
春日在 三笠乃山二 月船出 遊士之 飲酒坏尓 陰尓所見管

春日(かすが)なる三笠の山に月の船出づ遊士(みやびを)の飲む酒杯に影に見えつつ

 右ノ一首ハ、古歌集ニ出ヅ。



譬喩歌 (たとへうた)

一二九六、寄衣 (衣(ころも)に寄す)
今造 斑衣服 面影 吾尓所念 末服友

今作る斑の衣目につきて*吾(あれ)は思ほゆいまだ着ねども



一二九七、寄衣、
紅 衣染 雖欲 著丹穗哉 人可知

紅に衣染(し)めまく欲しけども着てにほはばや人の知るべき

 右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一二九八、寄衣、
干各 人雖云 織次 我廿物 白麻衣

かにかくに人は言ふとも織り継がむ吾(あ)が機物(はたもの)の白麻衣(しろあさごろも)



一二九九、寄玉 (玉に寄す)
安治村 十依海 船浮 白玉採 人所知勿

あぢ群のむれよる海に船浮けて白玉採ると人に知らゆな




一三〇〇、寄玉、
遠近 礒中在 白玉 人不知 見依鴨

をちこちの磯の中なる白玉を人に知らえず見むよしもがも



一三〇一、寄玉、
海神 手纒持在 玉故 石浦廻 潜為鴨

海神(わたつみ)の手に巻き持たる玉故に磯の浦廻に潜(かづ)きするかも




一三〇二、寄玉、
海神 持在白玉 見欲 千遍告 潜為海子

海神の持たる白玉見まく欲り千たびそ告げし潜きする海人

 右ノ五首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一三〇三、寄玉、
潜為 海子雖告 海神 心不得 所見不云

潜きする海人は告ぐれど海神の心し得ねば見えむとも云はず


一三〇四、寄木 (木に寄す)
天雲 棚引山 隠在 吾下心 木葉知

天雲の棚引く山の隠(こも)りたる我が下心木の葉知りけむ



一三〇五、寄木、
雖見不飽 人國山 木葉 己心 名著念

見れど飽かぬ人国山の木の葉をし下の心になつかしみ思(も)ふ

 右ノ二首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一三〇六、寄花 (花に寄す)
是山 黄葉下 花矣我 小端見 反戀

この山の黄葉(もみち)の下に咲く花を吾(あれ)はつはつに見つつ恋ふるも

 右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一三〇七、寄川 (川に寄す)
従此川 船可行 雖在 渡瀬別 守人有

この川よ船は行くべくありといへど渡り瀬ごとに守(も)る人あるを

 右ノ一首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一三〇八、寄海
大海 候水門 事有 従何方君 吾率凌

大海は水門(みなと)を候(まも)る事しあらばいづへよ君が吾(あ)を率(ゐ)隠れむ



一三〇九、寄海、
風吹 海荒 明日言 應久 公随

風吹きて海は荒るとも明日と言はば久しかるべし君がまにまに



一三一〇、寄海、
雲隠 小嶋神之 恐者 目間 心間哉

雲隠る小島の神の畏けば目は隔つれど心隔つや

 右ノ三首ハ、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。



一三一一、寄衣
橡 衣人皆 事無跡 曰師時従 欲服所念

橡(つるはみ)の衣は人の事なしと言ひし時より着欲しく思ほゆ



一三一二、寄衣、
凡尓 吾之念者 下服而 穢尓師衣乎 取而将著八方

おほよそに吾(あれ)し思はば下に着てなれにし衣(きぬ)を取りて着めやも



一三一三、寄衣、
紅之 深染之衣 下著而 上取著者 事将成鴨

紅の深染(こそめ)の衣下に着て上に取り着ば言(こと)なさむかも



一三一四、寄衣、
橡 解濯衣之 恠 殊欲服 此暮可聞

橡の解洗衣(ときあらひきぬ)のあやしくも異(け)に着欲しけきこの夕へかも



一三一五、寄衣、
橘之 嶋尓之居者 河遠 不曝縫之 吾下衣

橘の島にし居れば川遠み曝さず縫ひし吾(あ)が下衣



一三一六、寄絲 (糸に寄す)
河内女之 手染之絲乎 絡反 片絲尓雖有 将絶跡念也

河内女(かふちめ)の手染の糸を繰り返し片糸にあれど絶えむと思(も)へや



一三一七、寄玉
海底 沈白玉 風吹而 海者雖荒 不取者不止

海(わた)の底沈(しづ)く白玉風吹きて海は荒るとも取らずばやまじ



一三一八、寄玉、
底清 沈有玉乎 欲見 千遍曽告之 潜為白水郎

底清み沈ける玉を見まく欲り千たびぞ告げし潜きする海人



一三一九、寄玉、
大海之 水底照之 石著玉 齊而将採 風莫吹行年

大海の水底(みなそこ)照らし沈く玉斎(いは)ひて採らむ風な吹きそね


一三二〇、寄玉、
水底尓 沈白玉 誰故 心盡而 吾不念尓

水底に沈く白玉誰ゆゑに心尽して吾(あ)が思(も)はなくに



一三二一、寄玉、
世間 常如是耳加 結大王 白玉之緒 絶樂思者

世間(よのなか)は常かくのみか結びてし白玉の緒の絶ゆらく思(も)へば




一三二二、寄玉、
伊勢海之 白水郎之嶋津我 鰒玉 取而後毛可 戀之将繁

伊勢の海の海人の島津(しまつ)が鮑玉(あはびたま)採りて後もか恋の繁けむ




一三二三、寄玉、
海之底 奥津白玉 縁乎無三 常如此耳也 戀度味試

海の底沖つ白玉よしを無み常かくのみや恋ひ渡りなむ



一三二四、寄玉、
葦根之 懃念而 結義之 玉緒云者 人将解八方

葦の根のねもころ思(も)ひて結びてし玉の緒といはば人解かめやも



一三二五、寄玉、
白玉乎 手者不纒尓 匣耳 置有之人曽 玉令詠流

白玉を手には巻かずに箱のみに置けりし人ぞ玉溺らする



一三二六、寄玉、
照左豆我 手尓纒古須 玉毛欲得 其緒者替而 吾玉尓将為

照左豆我手に巻き古す玉もがもその緒は替へて吾(あ)が玉にせむ


一三二七、寄玉、
秋風者 継而莫吹 海底 奥在玉乎 手纒左右二

秋風は継ぎてな吹きそ海(わた)の底沖なる玉を手に巻くまでに


一三二八、寄日本琴 (日本琴(やまとこと)に寄す)
伏膝 玉之小琴之 事無者 甚幾許 吾将戀也毛

膝に伏す玉の小琴(をこと)の事無くば甚だここだ吾(あれ)恋ひめやも



一三二九、寄弓 (弓に寄す)
陸奥之 吾田多良真弓 著絃而 引者香人之 吾乎事将成

陸奥(みちのく)の安太多良(あだたら)真弓弦(つら)はけて引かばか人の吾(あ)を言なさむ



一三三〇、寄弓、
南淵之 細川山 立檀 弓束纒及 人二不所知

南淵(みなふち)の細川山に立つ檀(まゆみ)弓束(ゆつか)巻くまで人に知らえじ



一三三一、寄山 (山に寄す)
磐疊 恐山常 知管毛 吾者戀香 同等不有尓

磐畳(いはたた)む畏き山と知りつつも吾(あれ)は恋ふるかなそらへなくに



一三三二、寄山、
石金之 凝敷山尓 入始而 山名付染 出不勝鴨

岩が根のこごしく山に入りそめて山なつかしみ出でかてぬかも



一三三三、寄山、
佐穂山乎 於凡尓見之鹿跡 今見者 山夏香思母 風吹莫勤

佐保山をおほに見しかど今見れば山なつかしも風吹くなゆめ



一三三四、寄山、
奥山之 於石蘿生 恐常 思情乎 何如裳勢武

奥山の岩に苔生し畏けど思ふ心を如何にかもせむ



一三三五、寄山、
思て 痛文為便無 玉手次 雲飛山仁 吾印結

思ひかていたもすべなみ玉たすき畝傍の山に吾(あれ)標(しめ)結ひつ



一三三六、寄草 (草に寄す)
冬隠 春乃大野乎 焼人者 焼不足香文 吾情熾

冬こもり春の大野を焼く人は焼き足らねかも吾(あ)が心焼く



一三三七、寄草、
葛城乃 高間草野 早知而 標指益乎 今悔拭

葛城(かづらき)の高間の草野(かやぬ)早領(し)りて標(しめ)指さましを今し悔しも



一三三八、寄草、
吾屋前尓 生土針 従心毛 不想人之 衣尓須良由奈

我が屋戸に生ふるつちはり心よも思はぬ人の衣に摺らゆな



一三三九、寄草、
鴨頭草丹 服色取 揩目伴 移變色登 称之苦沙

月草に衣色どり摺らめどもうつろふ色と言ふが苦しさ



一三四〇、寄草、
紫 絲乎曽吾搓 足桧之 山橘乎 将貫跡念而

紫の糸をぞ吾(あ)が搓(よ)るあしひきの山橘を貫(ぬ)かむと思(も)ひて



一三四一、寄草、
真珠付 越能菅原 吾不苅 人之苅巻 惜菅原

真玉つく越智の菅原(すがはら)吾(あれ)刈らず人の刈らまく惜しき菅原



一三四二、寄草、
山高 夕日隠奴 淺茅原 後見多米尓 標結申尾

山高み夕日隠りぬ浅茅原のち見むために標結はましを



一三四三、寄草、
事痛者 左右将為乎 石代之 野邊之下草 吾之苅而者 
 ( 一云 紅之 寫心哉 於妹不相将有)

言痛(こちた)くばかもかもせむを磐代の野辺の下草吾(あれ)し刈りてば



一三四四、寄草、
真鳥住 卯名手之神社之 菅根乎 衣尓書付 令服兒欲得

真鳥棲む雲梯(うなて)の杜の菅の実を*衣にかき付け着せむ子もがも



一三四五、寄草、
常不 人國山乃 秋津野乃 垣津幡鴛 夢見鴨

常知らぬ人国山の秋津野のかきつはたをし夢(いめ)に見しかも



一三四六、寄草、
姫押 生澤邊之 真田葛原 何時鴨絡而 我衣将服

をみなへし佐紀沢(さきさは)の辺(べ)の真葛原いつかも繰りて吾(あ)が衣(きぬ)に着む



一三四七、寄草、
於君似 草登見従 我標之 野山之淺茅 人莫苅根

君に似る草と見しより吾(あ)が標めし野の上(へ)の浅茅人な刈りそね



一三四八、寄草、
三嶋江之 玉江之薦乎 従標之 己我跡曽念 雖未苅

三島江の玉江の薦(こも)を標めしより己がとぞ思(も)ふ未だ刈らねど



一三四九、寄草、
如是為而也 尚哉将老 三雪零 大荒木野之 小竹尓不有九二

かくしてや黙止(なほ)や老いなむみ雪降る大荒木野の小竹(しぬ)にあらなくに



一三五〇、寄草、
淡海之哉 八橋乃小竹乎 不造笶而 信有得哉 戀敷鬼呼

近江のや八橋(やばせ)の小竹を矢はがずてまことあり得むや恋(こほ)しきものを



一三五一、寄草、
月草尓 衣者将揩 朝露尓 所沾而後者 徙去友

月草に衣は摺らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも



一三五二、寄草、
吾情 湯谷絶谷 浮蓴 邊毛奥毛 依勝益士

我が心ゆたにたゆたに浮蓴(うきぬなは)辺にも沖にも寄りかてましを



一三五三、寄稲 (稲に寄す)
石上 振之早田乎 雖不秀 繩谷延与 守乍将居

石上(いそのかみ)布留(ふる)の早稲田(わさだ)を秀でずとも縄(しめ)だに延(は)へよ守(も)りつつをらむ



一三五四、寄木
白菅之 真野乃榛原 心従毛 不念吾之 衣尓揩

白菅の真野の榛原(はりはら)心よも思はぬ君が衣に摺りつ



一三五五、寄木、
真木柱 作蘇麻人 伊左佐目丹 借廬之為跡 造計米八方

真木柱作る杣人(そまひと)いささめに仮廬の為と作りけめやも



一三五六、寄木、
向峯尓 立有桃樹 将成哉等 人曽耳言為 汝情勤

向つ峰(を)に立てる桃の木生(な)りぬやと人ぞ囁(ささ)めきし汝(な)が心ゆめ



一三五七、寄木、
足乳根乃 母之其業 桑尚 願者衣尓 著常云物乎

たらちねの母がその業(な)る桑子すら願へば衣に着るちふものを



一三五八、寄木、
波之吉也思 吾家乃毛桃 本繁 花耳開而 不成在目八方

はしきやし我家(わぎへ)の毛桃本繁く花のみ咲きて生(な)らざらめやも



一三五九、寄木、
向岳之 若楓木 下枝取 花待伊間尓 嘆鶴鴨

向つ峰の若桂の木下枝(しづえ)取り花待つい間に嘆きつるかも



一三六〇、寄花
氣緒尓 念有吾乎 山治左能 花尓香公之 移奴良武

息の緒に思へる吾(あれ)を山ぢさの花にか君がうつろひぬらむ



一三六一、寄花、
墨吉之 淺澤小野之 垣津幡 衣尓揩著 将衣日不知毛

住吉の浅沢小野のかきつはた衣に摺り付け着む日知らずも



一三六二、寄花、
秋去者 影毛将為跡 吾蒔之 韓藍之花乎 誰採家牟

秋さらば移しもせむと吾(あ)が蒔きし韓藍(からゐ)の花を誰か摘みけむ



一三六三、寄花、
春日野尓 咲有芽子者 片枝者 未含有 言勿絶行年

春日野に咲きたる萩は片枝はいまだふふめり言な絶えそね



一三六四、寄花、
欲見 戀管待之 秋芽子者 花耳開而 不成可毛将有

見まく欲り恋ひつつ待ちし秋萩は花のみ咲きて生(な)らずかもあらむ



一三六五、寄花、
吾妹子之 屋前之秋芽子 自花者 實成而許曽 戀益家礼

我妹子が屋戸の秋萩花よりは実に成りてこそ恋まさりけれ



一三六六、寄鳥 (鳥に寄す)
明日香川 七瀬之不行尓 住鳥毛 意有社 波不立目

明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立てざらめ



一三六七、寄獸 (獣(けだもの)に寄す)
三國山 木末尓住歴 武佐左妣乃 此待鳥如 吾俟将痩

三国山木末(こぬれ)に住まふむささびの鳥待つがごと吾(あれ)待ち痩せむ



一三六八、寄雲  (雲に寄す)
石倉之 小野従秋津尓 發渡 雲西裳在哉 時乎思将待

岩倉の小野よ秋津に立ち渡る雲にしもあれや時をし待たむ



一三六九、寄雷 (雷(いかつち)に寄す)
天雲 近光而 響神之 見者恐 不見者悲毛

天雲に近く光りて鳴る神の見れば畏(かしこ)し見ねば悲しも



一三七〇、寄雨 (雨に寄す)
甚多毛 不零雨故 庭立水 太莫逝 人之應知

ここだくも降らぬ雨ゆゑ庭たづみ甚(いた)くな行きそ人の知るべく



一三七一、寄雨、
久堅之 雨尓波不著乎 恠毛 吾袖者 干時無香

久かたの雨には着ぬをあやしくも我が衣手は干(ひ)る時なきか



一三七二、寄月 (月に寄す)
三空徃 月讀壮士 夕不去 目庭雖見 因縁毛無

み空行く月読壮士(つくよみをとこ)夕さらず目には見れども寄るよしも無し



一三七三、寄月、
春日山 々高有良之 石上 菅根将見尓 月待難

春日山山高からし石上(いそのかみ)菅根見むに月待ちがたし



一三七四、寄月、
闇夜者 辛苦物乎 何時跡 吾待月毛 早毛照奴賀

闇の夜は苦しきものをいつしかと我が待つ月も早も照らぬか



一三七五、寄月、
朝霜之 消安命 為誰 千歳毛欲得跡 吾念莫國

朝霜の消(け)やすき命誰がために千年もがもと吾(あ)が思(も)はなくに

 右ノ一首ハ、譬喩歌ノ類ニアラズ。但シ闇ノ夜ノ歌人ノ、所心ノ故ニ並ニ此ノ歌ヲ作ム。コレニ因リテ此ノ歌、此ノ次ニ載ス。



一三七六、寄赤土 (赤土(はに)に寄す)
山跡之 宇陀乃真赤土 左丹著者 曽許裳香人之 吾乎言将成

大和の宇陀の真赤土(まはに)のさ丹(に)付かばそこもか人の吾(あ)を言(こと)なさむ



一三七七、寄神 (神に寄す)
木綿懸而 祭三諸乃 神佐備而 齊尓波不在 人目多見許曽

木綿懸けて祭(いは)ふ三諸の神さびて斎(い)むにはあらず人目多みこそ



一三七八、寄神、
木綿懸而 齊此神社 可超 所念可毛 戀之繁尓

木綿懸けて斎ふこの社(もり)越えぬべく思ほゆるかも恋の繁きに



一三七九、寄河  (河に寄す)
不絶逝 明日香川之 不逝有者 故霜有如 人之見國

絶えずゆく明日香の川の淀めらば故しもあるごと人の見まくに



一三八〇、寄河、
明日香川 湍瀬尓玉藻者 雖生有 四賀良美有者 靡不相

明日香川瀬々(せせ)に玉藻は生ひたれどしがらみあれば靡きあはなくに



一三八一、寄河、
廣瀬河 袖衝許 淺乎也 心深目手 吾念有良武

広瀬川袖漬(つ)くばかり浅きをや心深めて吾(あ)は思へらむ



一三八二、寄河、
泊瀬川 流水沫之 絶者許曽 吾念心 不遂登思齒目

泊瀬川流るる水沫(みを)の絶えばこそ吾(あ)が思(も)ふ心遂げじと思はめ



一三八三、寄河、
名毛伎世婆 人可知見 山川之 瀧情乎 塞敢而有鴨

嘆きせば人知りぬべみ山川(やまがは)のたぎつ心を塞(せ)かへたるかも



一三八四、寄河、
水隠尓 氣衝餘 早川之 瀬者立友 人二将言八方

水隠(みこも)りに息づきあまり早川の瀬には立つとも人に言はめやも



一三八五、寄埋木 (埋木(うもれき)に寄す)
真そ持 弓削河原之 埋木之 不可顕 事尓不有君

真鉋(まかな)持ち弓削(ゆげ)の川原の埋木のあらはるまじき事とあらなくに



一三八六、寄海 (海に寄す)
大船尓 真梶繁貫 水手出去之 奥者将深 潮者干去友

大船に真楫しじ貫(ぬ)き榜ぎ出にし沖は深けむ潮は干ぬとも



一三八七、寄海、
伏超従 去益物乎 間守尓 所打沾 浪不數為而
伏超(ふしこえ)よ行かましものを目守(まも)らふにうち濡らさえぬ波数(よ)まずして



一三八八、寄海、
石灑 岸之浦廻尓 縁浪 邊尓来依者香 言之将繁

石隠(いそがく)り岸の浦廻に寄する波辺に来寄らばか言の繁けむ



一三八九、寄海、
礒之浦尓 来依白浪 反乍 過不勝者 誰尓絶多倍

磯の浦に来寄る白波返りつつ過ぎかてなくば岸にたゆたへ



一三九〇、寄海、
淡海之海 浪恐登 風守 年者也将經去 榜者無二

近江の海(み)波畏みと風まもり年はや経なむ榜ぐとはなしに



一三九一、寄海、
朝奈藝尓 来依白浪 欲見 吾雖為 風許増不令依

朝凪に来寄る白波見まく欲り吾(あれ)はすれども風こそ寄せね



一三九二、寄浦沙 (浦沙(まなご)に寄す)
紫之 名高浦之 愛子地 袖耳觸而 不寐香将成

紫の名高の浦の真砂土(まなごつち)袖のみ触りて寝ずかなりなむ



一三九三、寄浦沙、
豊國之 聞之濱邊之 愛子地 真直之有者 何如将嘆

豊国の企玖(きく)の浜辺の真砂土真直(まなほ)にしあらば如何で嘆かむ



一三九四、寄藻 (藻に寄す)
塩満者 入流礒之 草有哉 見良久少 戀良久乃太寸

潮満てば入りぬる磯の草なれや見らく少く恋ふらくの多き



一三九五、寄藻、
奥浪 依流荒礒之 名告藻者 心中尓 疾跡成有

沖つ波寄する荒磯の名告藻(なのりそ)の心のうちに靡きあひにけり



一三九六、寄藻、
紫之 名高浦乃 名告藻之 於礒将靡 時待吾乎

紫の名高の浦の名告藻の磯に靡かむ時待つ吾(あれ)を



一三九七、寄藻、
荒礒超 浪者恐 然為蟹 海之玉藻之 憎者不有手

荒磯越す波は畏ししかすがに海の玉藻の憎くはあらぬを



一三九八、寄船 (船に寄す)
神樂聲浪乃 四賀津之浦能 船乗尓 乗西意 常不所忘

楽浪(ささなみ)の志賀津の浦の船乗りに乗りにし心常忘らえず



一三九九、寄船、
百傳 八十之嶋廻乎 榜船尓 乗尓志情 忘不得裳

百伝ふ八十(やそ)の島廻を榜ぐ船に乗りにし心忘れかねつも



一四〇〇、寄船、
嶋傳 足速乃小舟 風守 年者也經南 相常齒無二

島伝ふ足速(あはや)の小舟(をぶね)風まもり年はや経なむ逢ふとはなしに



一四〇一、寄船、
水霧相 奥津小嶋尓 風乎疾見 船縁金都 心者念杼

水霧(みなぎ)らふ沖つ小島に風をいたみ船寄せかねつ心は思(も)へど



一四〇二、寄船、
殊放者 奥従酒甞 湊自 邊著經時尓 可放鬼香

こと離(さ)かば沖よ離かなむ湊より辺(へ)付かふ時に離くべきものか



一四〇三、旋頭歌 
三幣帛取 神之祝我 鎮齊杉原 燎木伐 殆之國 手斧所取奴

御幣(みぬさ)取り神の祝(はふり)が斎(いは)ふ杉原薪伐りほとほとしくに手斧取らえぬ



挽 歌  (かなしみうた)

一四〇四、
鏡成 吾見之君乎 阿婆乃野之 花橘之 珠尓拾都

鏡なす吾(あ)が見し君を阿婆(あば)の野の花橘の玉に拾(ひり)ひつ



一四〇五、
蜻野S 人之懸者 朝蒔 君之所思而 嗟齒不病

秋津野を人の懸くれば朝撒きし君が思ほえて嘆きはやまず



一四〇六、
秋津野尓 朝居雲之 失去者 前裳今裳 無人所念

秋津野に朝居る雲の失せぬれば昨日も今日も亡き人思ほゆ



一四〇七、
隠口乃 泊瀬山尓 霞立 棚引雲者 妹尓鴨在武

隠国(こもりく)の泊瀬の山に霞立ち棚引く雲は妹にかもあらむ



一四〇八、
狂語香 逆言哉 隠口乃 泊瀬山尓 廬為云

狂言(たはこと)か妖言(およづれこと)や隠国の泊瀬の山に廬せりちふ




一四〇九、
秋山 黄葉_怜 浦觸而 入西妹者 待不来

秋山の黄葉(もみち)あはれみうらぶれて入りにし妹は待てど来まさず




一四一〇、
世間者 信二代者 不徃有之 過妹尓 不相念者

世の中はまこと二代(ふたよ)はゆかざらし過ぎにし妹に逢はなく思へば




一四一一、
福 何有人香 黒髪之 白成左右 妹之音乎聞

幸(さき)はひのいかなる人か黒髪の白くなるまで妹が声を聞く




一四一二、
吾背子乎 何處行目跡 辟竹之 背向尓宿之久 今思悔裳

我が背子をいづく行かめとさき竹の背向(そがひ)に寝しく今し悔しも




一四一三、
庭津鳥 可鷄乃垂尾乃 乱尾乃 長心毛 不所念鴨

庭つ鳥鶏(かけ)の垂り尾の乱り尾の長き心も思ほえぬかも




一四一四、
薦枕 相巻之兒毛 在者社 夜乃深良久毛 吾惜責

薦枕(こもまくら)相枕(ま)きし子もあらばこそ夜の更くらくも吾(あ)が惜しみせめ




一四一五、
玉梓能 妹者珠氈 足氷木乃 清山邊 蒔散と

玉づさの妹は玉かもあしひきの清き山辺に撒けば散りぬる




一四一六、或本歌曰 (或ル本ノ歌ニ曰ク、)
玉梓之 妹者花可毛 足日木乃 此山影尓 麻氣者失留

玉づさの妹は花かもあしひきのこの山蔭に撒けば失せぬる




一四一七、羈旅歌
名兒乃海乎 朝榜来者 海中尓 鹿子曽鳴成 _怜其水手

名児の海を朝榜ぎ来れば海中(わたなか)に鹿子(かこ)ぞ呼ぶなるあはれその水夫(かこ)

 

         巻第七了

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